【追記:後段の拙訳を追加しました 2008-04-11 at 09:00】
その昔,「時価会計が不況を招く」という趣旨の本があったけれども,経済に不穏な雰囲気が漂いはじめると,繰り返しこういう議論が出てくるのは,どういうことなんだろう。
金融機関に新たな火種:NBonline(日経ビジネス オンライン):
「影響は限定的」——。米国発の金融不安の影響をこう説明してきた国内金融機関の見通しが、覆されかねない事態が起きている。
きっかけは、3月26日に日本公認会計士協会が会員に宛てた通知。「証券化商品の評価等に対する監査に当たって」と題された指針が、金融関係者に波紋を呼んでいるのだ。
内容は、金融機関や企業が保有する証券化商品の時価評価の厳格化を求めるもの。一見、協会の各監査法人への注意喚起にしか見えないが、金融関係者は「証券化商品を保有する企業の業績を揺るがしかねない」と警戒する。
ここで述べられている「証券化商品の評価等に対する監査に当たって」の概要は,
サブプライムローン問談に端を発する金融市場の混乱に対して,
監査人は証券化商品の評価の妥当性を慎重に勘案する必要がある
というもの。
証券化商品の期末評価は原則として「時価」による必要があり,
それは市場において取引される価額か,「企業の経営者の合理的な見積りに基づく合理的に算定された価額」ということになる。
「証券化商品の評価等に対する監査に当たって」にある
特に、証券化商品について、流動性リスクを十分に考慮せず、信用リスクの評価に過ぎない格付けのみに依存した価格評価を行っている場合などは時価としての妥当性がないと考えられる
を指して,先の記事は
金融機関に新たな火種:NBonline(日経ビジネス オンライン):
「そもそも、市場価格がつかない商品を、どう評価すればいいのか」と先の公認会計士は言う。
(中略)
市場価格は、ある程度の売買があって成り立つ。今回のように、そもそも取引が成立しない局面では、理論的な値付けの根拠がない。
としている。
「時価」評価なんて無理だろうという趣旨に読める。
朝日新聞にも論旨の似た記事がある。
asahi.com:金融危機の損失、世界で9450億ドルか IMF試算 – 国際:
IMFは、金融危機が家計の借り入れや企業の設備投資、資産価格に重くのしかかり、雇用や生産の伸びなどに跳ね返る恐れが強いと警告し、実体経済への打撃が深刻化する危険を強調した。対策として金融機関には一層の資本増強、各国政府などには時価会計を厳格に適用することの猶予や、金融機関の救済準備などを呼びかけた。
(中略)
政府など公的部門の短期対策として、(1)市場混乱期は、時価会計の厳格な適用猶予を公的に認知する必要があるかもしれない(2)苦境に陥った金融機関の緊張を早期に取り除く態勢を積極的に整える(3)早い段階で確実に救済措置や介入を実施することが適当なケースも考えられる、などと提言。公的資金に支えられた救済も視野に入れ、機動的な取り組みを呼びかけている。
(下線は引用者)
実際にIMFのレポート(のサマリー)を読むと
the April 2008 Global Financial Stability Report (EXECTIVE SUMMARY)
Short-term official sector actions would be most helpful in the following areas:
• Consistency of treatment.
Along with auditors, supervisors can encourage transparency and ensure the consistency of approach for difficult-to-value securities so that accounting and valuation discrepancies across global financial institutions are minimized.
(中略)
Some latitude in the strict application of fair value accounting during stressful events may need to be more formally recognized.
(拙訳)
公的部門の短期対策として,最も有益だと考えられるのは次のようなものである:
・一貫した対応
スーパーバイザーは監査人と協働して,透明性を高める支援をし,評価が難しい証券化商品への対応の一貫性を確実にする。これによって全世界の金融機関の間に生じる会計と評価の食い違いは最小限に抑えられる。
(中略)
市場混乱期においては,時価会計の厳格な適用に対する許容範囲を正しく認識すべきかもしれない。
とあるので,朝日新聞の書き方はあながち間違っていないのかもしれないけれども,
the April 2008 Global Financial Stability Report (EXECTIVE SUMMARY)
Areas in which the private sector could usefully contribute are:
• Disclosure.
Providing timely and consistent reporting of exposures and valuation methods to the public, particularly for structured credit products and other illiquid assets, will help alleviate uncertainties about regulated financial institutions’ positions.
• Bank balance sheet repair.
Writedowns, undertaken as soon as reasonable estimates of their size can be established, will help cleanse banks’ balance sheets.
Weakly capitalized institutions should immediately seek to raise fresh equity and medium-term funding even if the cost of doing so appears high.
(拙訳)
民間部門における取り組みとして有益と考えられるは次のものである:
・情報開示
損失予想額や評価方法に関する情報(とくに資産担保証券やその他の非流動資産に関するもの)を適切に開示することが,監督金融機関についての不確実性を軽減することにつながると考えられる。
・貸借対照表の修繕
減損処理(それぞれの体力に見合った合理的な見積りにもとづいて早期になされるもの)は,各銀行の貸借対照表をきれいなものにするだろうと考えられる。
資本力の乏しい金融機関はただちに自己資本の新規増強に努め,また中期的な資金調達を検討しなければならない。たとえ相応の費用がかかるとしても。
を読むと,問題先送りを提言しているのではないと分かる。
開示される会計情報はほとんどすでに過去情報でしかないのだから,都合の悪いことをいつまでも隠していても将来への積極的な行動につながるとは思えない。
バフェットも,悪い情報ほどできるだけ早くオープンにすることと言っているし。
「透明性の高い企業情報のサプライチェーン」がどこかで寸断されることは金融市場の根幹に関わる。
それをするのが,情報の出し手である企業であれ,情報の信頼性を担保する監査人であれ。
これについてはまた,別のエントリーで書こうと思う。
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